Blog心理英語 #6:自閉症とDouble Empathy-すれ違いから見える“共感”の新たな真実
2024/11/29
心理英語 #6:自閉症とDouble Empathy-すれ違いから見える“共感”の新たな真実
心理英語の窓をひらこう:最新心理学記事で学ぶ表現と知識
Opening the Window to Psychological English: Learn Expressions and Knowledge through the Latest Psychology Articles
このブログでは、心理学、脳科学、精神医学などの最新の英語論文から、興味深いトピックをピックアップして解説します。英語が得意でない方でも理解しやすいように、重要なフレーズや単語の意味を分かりやすく紹介し、心理英語の世界に自然と慣れ親しめる内容を目指しています。リラックスして読み進める中で、心理系大学院の受験にも役立つ英語力が少しずつ身につく、そんな実践的でフレッシュな記事をお届けします。
自閉症とDouble Empathy-すれ違いから見える“共感”の新たな真実
臨床心理士や公認心理師を目指し、心理系大学院の受験勉強に励んでいる皆さまへ。今回も、これからの受験に役立ちそうな話題を最新の英文記事からお届けします。受験勉強の合間の気分転換として、どうぞ気軽にお楽しみください。
ダブルエンパシー問題とは?
みなさんは「自閉症の人は共感が苦手だ」といったような、一般的化されたイメージを持っていませんか?実は、この見方が大きな誤解を生む原因となっていた可能性があります。2012年、心理学者のDamian Miltonは「ダブルエンパシー問題(Double Empathy Problem)」という考え方を提唱し、自閉症に対する従来の理解に新たな視点を加えました。
ダブルエンパシー問題とは、共感の問題が自閉症者(Autistic)だけの特性ではなく、非自閉症者(Allistic)との相互作用から生じるものだという考え方です。簡単に言えば、双方が異なる「文化的背景」や「思考スタイル」を持つために、相手を理解するのが難しくなっているのだと理解する考え方です。
この視点の重要なポイントは、「共感の欠如」は自閉症者側だけの問題ではなく、むしろ非自閉症者にも当てはまるということです。例えば、自閉症者が自分の感情や考えを伝える際、それを非自閉症者が正確に受け取れない場合があります。これは、非自閉症者の側にも相手を理解するための「言語」や「認知スタイル」が備わっていなかった可能性を示唆します。特に、自閉症者が独特のコミュニケーションパターンを持つ場合、その違いが相互理解の障壁となることが議論の焦点となっています。
この10年ほどで、ダブルエンパシー問題を扱った研究論文は急増しており、自閉症の人々への偏見を解消する鍵として注目されています。今回取り上げる英文も、こうした新しい視点を提示する一例です。
今回のフレーズ:Double Empathy Problem
2024年1月にAutism Embraceに掲載された“Autism and the Double Empathy Problem” (Debra Bercovici著)から、以下の英文を取り上げてみました。
Viewed through the lens of double empathy, more recent and autism-affirming research has found that allistics also struggle to empathize with others.
〔訳例〕ダブルエンパシーの視点を通して見ることで、より最近の自閉症を肯定的に捉える研究は、非自閉症者も他者に共感するのが難しい場合があることを明らかにした。
〔解説〕
Viewed through the lens of ~:
文頭に置かれた分詞構文で、レンズという比喩を用いて、手段や結果を表します。「~の視点を通して見ることで」「~の視点を通して見てみると」という意味になり、特定のフレームワークや観点に基づいて物事を捉えるときによく使われます。心理学や哲学の文脈では頻出する表現です。
例: Viewed through the lens of cultural diversity, these policies seem outdated.
(文化的多様性の視点から見ると、これらの政策は時代遅れのように見える。)
double empathy:
ダブルエンパシー(double empathy)は比較的新しい概念であり、日本語では大抵はそのまま「ダブルエンパシー」として紹介されていることが多いようです。訳語としては、未だ定まったものがなく、「二重共感」や「多重共感」と表記されている場合もあります。
autism-affirming research:
「自閉症を肯定的に捉えた研究」という意味です。affirmingには「支持する」「肯定する」というニュアンスがあり、従来の自閉症研究における否定的なアプローチとは対照的な視点を表します。因みに、自閉症研究などにおける否定的な見方やアプローチをdeficit narrativeと表現することは、以前のブログでご紹介しました( 第2回:ナラティブ(narrative)という言葉について – 発達障害臨床の文脈から https://kokoro-up.com/blog/wgNuGLs9 )。未だお読みでない方は、よかったらご一読ください。
allistics:
自閉症スペクトラムに該当しない人、つまり神経発達の特性が自閉症に当てはまらない人々を指します。この autistics と allistics の対比は、自閉症研究でよく使われる頻出の用語です。
因みに、allistics と似た言葉に neurotypicals という用語も存在します。neurotypicals は、発達障害全般やニューロダイバーシティー(神経多様性, neurodiversity)を議論する際に使われ、広範な対比を指す場合に適した言葉で、概ね日本語の「定型発達」と同義です。一方で、allistics はあくまで autistics との対比に焦点を当てており、「自閉症でない者」を意味します。そのため、allistics が ADHD など他の発達特性を持つ場合もあります。
そして、以下の文章が続きます…
The catch is that these struggles appear when one neurotype (autistic or allistic) is trying to understand the mindset of the opposite/other neurotype.
〔訳例〕
問題は、ある神経型(自閉症者または非自閉症者)が、反対のまたは他の神経型の考え方を理解しようとするときに、このような困難が現れるということです。
〔解説〕
The catch is that ~:
「問題は~だ」という意味のフレーズ。口語的でありながら、学術的な文脈でも使われます。文脈によっては裏事情や条件を暗示する場合もあります。
例:The catch is that you need to be over 18 to enter.
(問題は、18歳以上でないと入場できないことだ。)
neurotype:
neurotype(神経型)という用語は、神経多様性(neurodiversity)の視点から用いられる言葉で、自閉症者や非自閉症者など、特定の神経特性を区別するために使われます。日本語ではまだ定まった訳語はなく、文脈によって「神経型」「神経タイプ」「神経発達型」などと訳されることがあります。
ASDやADHDなどの発達障害に関する研究は、脳科学や遺伝子研究の進展、新たなデータ解析技術の発展、そしてコホート研究の大規模化を背景に、日本を含む世界中で日々急速な進展を遂げています。このため、書籍化された文献では最新の知見を十分に反映しきれない場合もあります。特に、最新情報に触れるには、海外の専門誌や研究論文を参照することが有効です。この分野に深い関心がある方は是非、「心理英語の窓」を開けて、海外の文献にも目を向けていっていただければと思います。
次回も、心理系大学院受験の英語対策に役立つ実践的でフレッシュな話題をお届けしたいと思います。興味深いテーマと旬なフレーズを通じて学びを深めていきましょう!
【この記事を書いた人】
木村 崇志 ココロアップアカデミー講師 臨床心理士・公認心理師
引用文献
著者: Debra Bercovici
投稿日:January 19, 2024
記事タイトル:Autism & the double empathy problem
出典:Autism Embrace https://embrace-autism.com/autism-and-the-double-empathy-problem/




