Blog心理英語 #2:ナラティブ (narrative) という言葉について – 発達障害臨床の文脈から
2024/10/18
心理英語 #2:ナラティブ (narrative) という言葉について – 発達障害臨床の文脈から
心理英語の窓をひらこう:最新心理学記事で学ぶ表現と知識
Opening the Window to Psychological English: Learn Expressions and Knowledge through the Latest Psychology Articles
このブログでは、心理学、脳科学、精神医学などの最新の英語論文から、興味深いトピックをピックアップして解説します。英語が得意でない方でも理解しやすいように、重要なフレーズや単語の意味を分かりやすく紹介し、心理英語の世界に自然と慣れ親しめる内容を目指しています。リラックスして読み進める中で、心理系大学院の受験にも役立つ英語力が少しずつ身につく、そんな実践的でフレッシュな記事をお届けします。
ナラティブ(narrative)という言葉について – 発達障害臨床の文脈から
今回も心理系大学院の受験に役立ちそうな話題を、最新の英文記事からお届けします。とはいえ、ブログ記事ですので、受験勉強の合間の気分転換として、リラックスして気楽に読んでいただけると嬉しいです。
心理学や社会科学の記事を読んでいると、narrative(ナラティブ)という言葉が頻繁に登場します。ほとんどの辞書や単語集では、単に「物語」や「叙述」「語り」といった訳語を紹介しているだけですが、実際には、それだけでは捉えきれない深い意味を持つことが多いです。narrativeは、個人や社会が現実をどのように捉え、どのようにその体験を意味づけるかを示すものであり、私たちがどのように物事を理解し、他者に伝えるかに大きな影響を与えます。今回は、自閉症に関する研究論文からのフレーズを例に挙げ、narrativeがどのように使われ、どのように訳されるかをみていきましょう。
今回のフレーズ:deficit narrative
This study directly asked autistic people about their own experience of empathy and of the empathy deficit narrative to provide a richer description than is afforded by traditional studies that typically use questionnaire measures.
(Kimber, L. et al., 2024, “Autistic People's Experience of Empathy and the Autistic Empathy Deficit Narrative” )
解説:
deficit narrativeというフレーズが出てきました。直訳すると、「欠陥の物語」とか「赤字(欠損)の物語」となってしまって、まったく意味が通じませんね。
自閉症に関する研究では、deficit narrativeがよく話題に上ります。これは、自閉症における特徴を欠陥や障害というネガティブな側面から語ろうとする視点や考え方を指します。つまり、従来のdeficit narrativeの視点では、自閉症の特徴が欠陥として捉えられ、その結果として、社会的なstigma(スティグマ, 社会的烙印)が形成されやすくなります。
その一方で、近年はstrengths-based narrativeの視点が広がりを見せ始めています。これは、自閉症の特徴を欠点として捉えるのではなく、強みとして見なす考え方です。最新の研究では、技術や芸術における自閉症の子供たちの特性を生かすプログラムが、彼らの自尊心や社会的スキルの向上に寄与していることが報告されています。
このように、narrativeを「見方」 「視点」 「考え方」と広く捉えてみることで、deficit narrativeについては、「(・・・を)欠点とする見方」や「(・・・の)欠如を強調する視点」といったように柔軟に訳すことができ、より適切にその概念を捉えられます。
訳例:
この研究では、自閉症の人々に対して、共感に関する彼ら自身の体験と、共感性の欠如という一般的な見解について直接尋ね、通常の質問紙を用いた調査では得られない、より豊かな記述を引き出した。
※この文脈では、empathy deficit narrativeは、「(自閉症の人には)共感性が欠如しているという(一般的な)見方」や、そうした「(世の中にある)通念」という意味になり、それについて当事者である自分らはどう思うか?をautistic peopleに質問したという文意になります。
参考:日常的に使われるnarrative
narrativeは心理学や社会科学などの文脈だけでなく、日常的な会話でもよく使われます。
例えば、 I’m sick of your victim narrative. というフレーズは、「もう君の被害者意識には嫌気がさしているよ。」とか、「もうあなたの被害者ヅラにはうんざりだ。」といったような意味になります。この場合のnarrativeもまた、「物語」ではなく、「特定の見方」や「自己認識の枠組み」を意味しています。
このように、narrativeは単なる「物語」以上のものを指し、日常的にも使われる表現です。この機会にnarrativeという単語のもつ実践的な感覚を身につけておきましょう。
次回もまた、心理系大学院受験の英語対策に役立つ実践的でフレッシュな話題をお届けしたいと思います。
【この記事を書いた人】
木村 崇志 ココロアップアカデミー講師 臨床心理士・公認心理師
引用文献:
著者:Lesley Kimber, Diarmuid Verrier, and Stephen Connolly
投稿日:2024年9月16日
記事タイトル:Autistic People's Experience of Empathy and the Autistic Empathy Deficit Narrative
出典:Autism in Adulthood https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/aut.2023.0001




