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心理英語 #8:スマホを開くたびに落ち込むのはなぜ?― 心理学が解き明かす “Upward Comparison” と “Depression” の心理メカニズム ―

Blog心理英語 #8:スマホを開くたびに落ち込むのはなぜ?― 心理学が解き明かす “Upward Comparison” と “Depression” の心理メカニズム ―

2025/11/30

心理英語 #8:スマホを開くたびに落ち込むのはなぜ?― 心理学が解き明かす “Upward Comparison” と “Depression” の心理メカニズム ―

心理英語ブログを読んでくださっている皆さん、いつもありがとうございます。

心理学を学ぶ方や、心理系大学院受験に向けて勉強している方、そして臨床心理士・公認心理師を志す方にとって、英語で心理学を理解する力は、研究にも臨床にもつながる大切なスキルです。コツコツと楽しみながら、スキルを磨いていきましょう!

さて今回は、誰もが日常的に経験しながら、意外と意識されていない現象をテーマにします。

――スマホを開いた瞬間、なんとなく気分が沈む。

SNSを眺めていると、充実した日常、キャリアの成功報告、楽しそうな旅行、美しい写真……そんな「人生のハイライト」が立て続けに流れてきます。そのとき、ふと「自分が見劣りしているように感じる」瞬間はありませんか?これは弱さでも僻みでもなく、心理学的にごく自然な反応です。

今日のキーワード Upward Comparison(上方比較) は、SNS時代のメンタルヘルスを理解するうえで避けて通れないテーマであり、研究も盛んです。心理学と心理英語の両面から、この“比較のメカニズム”をひもといていきましょう。

1. スマホを見ていると落ち込んでしまう?

この現象の背景には、現代人がハマる「比較ループ」が潜んでいます。SNSは情報収集や友人との交流に役立つ一方で、「他者と自分を比べやすい」環境でもあります。特に写真や動画が中心となるプラットフォームでは、「その人の最良の一瞬」だけが切り取られ、連続して目に入ってきます。

そして、そのたびに、自分の現実と比較してしまう、気分が沈む、やる気が落ちる・・・

こうした現象は、小さな感情変化のようでいて、積み重なるとメンタルに大きく影響を与えます。

2. Social Comparison Theory(社会的比較理論)とは?

社会的比較という考え方は SNS 以前から存在します。Festinger(1954)は、人間の認知特性として、「人は自分の能力や価値を知るために他者と比較する」、「比較対象は自分と近い人であるほど影響が大きい」と述べています。これは社会心理学の基本であり、認知的不協和理論 (Cognitive Dissonance Theory)とあわせて心理系大学院の入試問題などにも頻出です。

比較は automatic(自動的) かつ fast(高速) に起こります。SNSを見るときに「よし、比較しよう」と思っているわけではなく、見た瞬間に比較が始まっているのです。そして、「自分と年齢・価値観・生活が近い他者」に無限に出会うことができるSNS の中では、この比較行動が爆発的に起きることが容易に理解できますね。

また、比較には主に二つのタイプがあります。

-Upward Comparison(上方比較):自分より“上”に見える人との比較
-Downward Comparison(下方比較):自分より“下”に見える人との比較

問題なのは、SNSがUpwardの素材に偏って供給してしまう傾向がある点です。

3. Upward Comparisonとは?

― 「自分より上の人を見る」その心理的コスト

Upward Comparison は、自分より優れていると感じる相手との比較です。外見、学歴、キャリア、収入、ライフスタイルなど、比較の材料は無限にあります。Upward Comparison 自体は悪いことではありませんが、SNSでは次のような事情から心理的負荷が大きくなりやすいと言われています。

-他者の人生の“ベストショット”だけが提示される
-加工された画像が現実を歪める
-情報量が多すぎて判断が追いつかない

結果として、perceived inferiority(主観的劣等感)、self-esteem(自尊感情) の低下、social rank(社会的序列感)の揺らぎ、などが生じやすくなり、“少しずつ気分が落ちていく”という流れを作ります。

4. SNS時代に強まる Upward Comparison

― curated images / highlight reels の影響

SNS の特徴は、“みんなの日常”がそのまま並んでいるわけではなく、選び抜かれた「良い瞬間」だけが並ぶという点です。Verduyn et al. (2020) は、まず SNS 時代の「比較」の規模を次のように表現しています。

Because of the rise of social networking sites (SNSs), social comparisons take place at an unprecedented rate and scale.

〔訳:ソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)の台頭により、社会的比較はかつてないほどの頻度と規模で行われるようになった。〕

ここでいうunprecedented rate and scale(=かつてないほどの頻度と規模)が、まさに私たちがスマホを開くたびに感じる、「他人がまぶしく見えて、なんとなく疲れる」感覚の背景にあるわけですね。

さらに、SNS 上では「自分と似た人」の情報が、ものすごい量で流れてきます。Verduynらは、SNS について次のようにも述べています。

SNSs provide a fertile ground for social comparisons to take place as information about similar comparison targets is available at an unprecedented scale.

〔訳:SNS は、類似した比較対象に関する情報が前例のない規模で得られるため、社会的比較が生じるための肥沃な土壌を提供している。〕

ここでポイントになるのが、similar comparison targets(自分と似た比較対象)です。私たちは、知らないセレブだけでなく、同年代の友人、同じ大学・同じ職種の人達の成功場面だけを「ハイライト映像(highlight reel)」として見せられています。

結果として、他人の「厳選されたイメージ(curated images)」と、自分の編集されていない生々しい現実を比べる、上方比較(upward comparison) が、日常的・自動的に起きやすくなっている訳です。

5. Upward Comparison と Depression(抑うつ)の関係

ここで私たちが気を付けなければならないのが、upward comparison が mood(気分)に与える影響です。Verduyn らは、SNS と主観的幸福感(subjective well-being; SWB)の研究をレビューするなかで、オンラインでの社会的比較が、SNS とメンタルの関係を説明する主要なメカニズムのひとつであると述べています。

Several studies have directly examined whether social comparisons explain (mediate) the relationship between (subtypes of) SNS use and SWB.

〔訳:いくつかの研究では、SNS の使用(およびその特定の使用形態)と主観的幸福感(SWB)の関連を、社会的比較が説明(媒介)しているかどうかを直接検討している。〕

このmediate(媒介する)というのは、『SNS の利用 →(オンラインでの比較が増える)→ 気分が落ちる・抑うつ感が高まる』というつながりの“真ん中”に social comparison が入っている、というイメージです。

実際、レビューの中で Verduyn らは、「一般的な SNS 上の社会的比較は、抑うつと小~中程度の強さで正の関連がある。 Upward social comparison(上方比較)に限ると、抑うつとの関連は中程度の強さになる」とまとめています。

6. 心理英語フレーズ(キーワード解説)

最後に、今日の内容を踏まえて、関連する心理英語フレーズを整理しておきます。

① upward social comparison:上方比較(上方社会的比較)

自分よりも「優れている・恵まれている」と感じる他者と自分を比べること。

SNS 上では、成功・楽しそうな場面が強調されるため、upward social comparison が起こりやすいとされます。

例)Passive SNS use often triggers upward social comparison and envy.

② perceived inferiority:主観的劣等感(知覚された劣等感)

「客観的に」ではなく、自分の主観として『自分は劣っている』と感じること。Upward comparison の結果として、self-esteem の低下や抑うつ感につながる要因として扱われます。

例)Upward social comparison may increase perceived inferiority and depressive symptoms.

③ social rank:社会的序列感(社会的序列、社会的地位)

自分が「社会の中でどの位置にいるか」を主観的に捉える感覚。SNSによる比較はこの序列感を揺らしやすい。臨床心理から産業領域まで幅広い分野で使用される心理学キーワードです
例)SNS feedback can shape users’ perceived social rank among their peers.

④curated images:厳選(選別)された画像

curatedとは、選択された、厳選されたという意味。 ビジネスなどの文脈では、専門家が選定した商品や情報を提供することを指すことが多いです。 また、curateという動詞は、キュレーターが行う選択や整理の行為を意味します。

最後に、①の例文に出てきたPassive SNS use (SNSの受動的利用)についても補足しておきます。SNSの利用スタイルは、自分から発信や交流を行う『能動的利用(Active use)』と、他人の投稿をただ眺めるだけの『受動的利用(Passive use)』に分けられます。 多くの研究において、メンタルヘルスに悪影響を与えやすいのは、圧倒的にこの Passive use の方だとされています。 ただスクロールして他人のきらびやかな投稿を「受動的に眺めているだけ」の状態こそが、無意識の Upward Comparison(上方比較)を最も引き起こしやすく、結果として嫉妬や落ち込みにつながりやすいのです。

以上は、心理英語の論文読解や心理系大学院の専門英語にもつながる重要語彙ですので、この機会に押さえておくと良いですね。

7. 比較疲れの時代をどう生きる?

Upward Comparison は、特定の人だけの問題ではありません。領域を問わず、現代社会全体で起きている心理現象です。臨床心理の相談場面でも、SNS比較が自己否定や抑うつの背景にあるケースが見受けられます。学校臨床の現場では、思春期の self-esteem は外部刺激に弱く、SNSが気分変動の要因になり得ます。また、産業領域では、キャリア比較や「同僚との見えない競争」がストレスや burnout に関与することもあります。

SNSは便利で楽しいツールですが、“比較の装置”と化していることも意識しておきたいですね。その仕組みを心理学的に理解しておけば、気分の揺れにも説明がつき、これまでよりも柔らかく自分を扱えるようになるでしょう。

それでは次回もまた、心理系大学院受験の英語対策に役立つ実践的でフレッシュな話題をお届けしたいと思います。

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【この記事を書いた人】 
   木村 崇志  ココロアップアカデミー講師 臨床心理士・公認心理師


出典(Reference)

Verduyn, P., Gugushvili, N., Massar, K., Tifferet, S., & Kross, E. (2020). Social comparison on social networking sites. Current Opinion in Psychology, 36, 32–37.

著者公開PDF(無料で全文閲覧できます)
https://sites.lsa.umich.edu/emotion-selfcontrol-psych/wp-content/uploads/sites/1322/2020/07/1-s2.0-S2352250X20300464-main.pdf

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