Blog心理英語 #3:TRACEs (Traumatic and Adverse Childhood Experiences)と発達的精神医学的リスク
2024/11/2
心理英語 #3:TRACEs (Traumatic and Adverse Childhood Experiences)と発達的精神医学的リスク
心理英語の窓をひらこう:最新心理学記事で学ぶ表現と知識
Opening the Window to Psychological English: Learn Expressions and Knowledge through the Latest Psychology Articles
このブログでは、心理学、脳科学、精神医学などの最新の英語論文から、興味深いトピックをピックアップして解説します。英語が得意でない方でも理解しやすいように、重要なフレーズや単語の意味を分かりやすく紹介し、心理英語の世界に自然と慣れ親しめる内容を目指しています。リラックスして読み進める中で、心理系大学院の受験にも役立つ英語力が少しずつ身につく、そんな実践的でフレッシュな記事をお届けします。
TRACEs (Traumatic and Adverse Childhood Experiences)と発達的精神医学的リスク
心理系大学院の受験に役立ちそうな話題を、最新の英文記事からお届けします。今回のテーマはTRACEs(Traumatic and Adverse Childhood Experiences)、「トラウマ的および逆境的な子ども時代の体験」です。この概念は、従来のACEs(Adverse Childhood Experiences /子ども時代の逆境的体験)を超え、トラウマ体験の重なりが成人期の健康や認知発達にどのような影響を与えるかを探ります。将来、公認心理師や臨床心理士の資格を得て、子どもや若者の援助職を考えている方にとっては、特に興味のある研究分野かと思います。とはいえブログ記事ですので、受験勉強の合間にリラックスしてお読みください。
TRACEsとは?
TRACEsは、Traumatic and Adverse Childhood Experiencesの略で、「子ども時代のトラウマ的および逆境的な体験」が、成長と共に精神的・身体的な健康にどう影響するかを幅広く捉える概念です。
従来のACEs(Adverse Childhood Experiences)研究は、子ども時代の逆境体験が成人後の精神的・身体的健康リスクにどう影響するかを明らかにすることを主な目的とし、それらを成人後の心身の健康に対するリスク因子として評価します。逆境体験が多いほどリスクが増大する傾向を示し、その影響も長期的に持続することが知られています。特に、うつ病、心疾患、薬物依存などの健康問題がリスクとして指摘されています。
一方、TRACEsは、トラウマ的な体験がもたらす深い心理的影響を重視します。そのため、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、不安症、感情の調節障害など、特にトラウマによって引き起こされるメンタルヘルスの問題に重点が置かれます。TRACEsは、個人の発達段階や脳の発達に応じたリスクが異なることから、成長期における健康リスクがより複雑に評価される傾向があります。
注:TRACEsは、Trauma, Resiliency, and Adverse Childhood Experiencesの略として用いられる場合もあります。その場合は、逆境に対するresilience(レジリエンス,回復力)の視点を含めることで、より包括的に個人の成長や健康に焦点を当てた概念となっています。
今回のフレーズ:TRACEs(Traumatic and Adverse Childhood Experiences)
Building upon the traditional ACEs model, this study aimed to characterize unique components of commonly co-occurring TRACEs and to examine moderation of longitudinal change in mental health and cognitive development during adolescence.
(Russell et al., JAMA Psychiatry, 2024)
解説&読解のポイント:
この一文は、TRACEsに関する論文から、研究目的について記述している箇所の抜粋です。凝縮された書き方で、やや手ごたえのある文章になっていますが、分解して理解することで、構造が複雑な英文も捉えやすくなります。
Building upon the traditional ACEs model,
文頭に分詞構文を置いて、主節に付加的な情報を提供する構文パターンです。直訳的には「従来のACEsモデルの上に構築しながら…」となり、ここでは「従来のACEsモデルを基にして」とか、「従来のACEsモデルを発展させて」という意味合いになります。
characterize unique components of・・・
厳密に文意を訳出すると、「・・・に特有な構成要素の特徴を分析・記述する」という感じの文章になりますが、より平易に「・・・に特有の要素を明らかにする」と訳しておけば、堅苦しさもなくて十分かと思われます。characterizeには、「特徴づける」という訳がお馴染みですが、「特徴を述べる」「性格を描写する」といった意味があり、さらに転じて「明確にする」といった意味合いになることもあります。
commonly co-occurring TRACEs
co-occurringには、「同時に起こる→共存する, 併存する」のニュアンスがあります。より医学的・臨床的な意味合いでの併存や合併の症状を示す厳密な表現としては、comorbid(併存症), complication(合併症)という単語があります。大学院の入試問題の英文ではよく目にする単語ですので、この機会に覚えておくと良いですね。
longitudinal change in mental health and cognitive development
訳は「メンタルヘルスと認知発達に対する長期的変化」となり、long-term change in mental health and cognitive development を訳した場合と同じになります。ところが実際には、longitudinalは単に「長期的」なだけでなく、「縦断的」に観察や測定が行われること、つまり同じ対象を継続的に追跡する意味を含んでいます。このニュアンスを正確に訳出したい場合には、やや堅苦しいですが、「長期的縦断的な変化」と訳してあげた方が良いでしょう。因みに、こうした研究方法をコホート研究(cohort study)と言います。
訳例:
本研究は、従来のACEsモデルを基礎に、一般的に併存するTRACEsの特有の要素を明らかにし、思春期におけるメンタルヘルスと認知発達に対する長期的(縦断的)変化の緩和効果を検討することを目的としている。
研究の背景と意義:
本研究(Traumatic and Adverse Childhood Experiences and Developmental Differences in Psychiatric Risk)では、TRACEsが発達段階に応じて異なる精神的健康リスクをもたらす可能性があることが示されています。様々な異なる形のTRACEsが精神医学的リスクおよび認知能力の発達的変化にそれぞれ異なる影響を与えることが明らかになり、若年層のリスクを精密に予測する可能性が示唆されました。これらの知見からは、リスクのある若年層に対する早期の予防および介入のためのターゲットを絞った戦略に活用できる可能性も期待されています。
1970年代後半以降、ベトナム戦争帰還兵の心的ストレス症状がきっかけとなり、進展しだしたトラウマ研究ですが、1990年代以降は、脳科学の進展により、脳や神経系にトラウマがどのような影響を与えるかが明らかになり始め、心理学だけでなく神経科学や精神医学の分野でも研究が活発化しています。
昨今は、脳内メカニズムの解明(トラウマ記憶が脳内でどのように形成されるかを明らかにする研究)、レジリエンスとの関係性(トラウマ体験とそれに対する回復力の関係性を探る研究)、トラウマ記憶の消去や抑制(トラウマ記憶を消去または抑制する方法の研究)といったテーマが、研究のトレンドとして注目を集めているようです。このブログでも、また機会を見つけてトラウマに関する話題に触れてみたいと思います。
次回もまた、心理系大学院受験の英語対策に役立つ実践的でフレッシュな話題をお届けしたいと思います。
【この記事を書いた人】
木村 崇志 ココロアップアカデミー講師 臨床心理士・公認心理師
引用文献
著者: Justin D. Russell; Sara A. Heyn; Matthew Peverill; et al
投稿日:2024年10月23日
記事タイトル:Traumatic and Adverse Childhood Experiences and Developmental Differences in Psychiatric Risk
出典:JAMA Psychiatry https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2825281




