2025/10/6
過去問対策 心理学研究法・統計学の問題
心理系大学院受験生への過去問のアドバイス
これから紹介する過去問題は、心理学研究法の良く出る問題です。
この種の問題に対応できるようになるための勉強法について紹介します。
「なぜ」を常に考える癖をつける :
心理学研究法における、「被験者間計画」「統制群」「ベースライン」といった専門用語を暗記するだけでは不十分です。「なぜ、この実験では被験者内計画ではなく被験者間計画が採用されたのか?」「なぜ、この統制条件が適切だと言えるのか?」など、常に研究デザインの背景にある論理(ロジック)を考えるようにしましょう。
研究法の教科書の各項目について、その手法のメリット・デメリットを自分の言葉で説明できるように訓練することが重要です。研究論文の「方法」の章を精読する:
教科書の勉強と並行して、興味のある分野の学術論文をいくつか読んでみましょう。
特に注目すべきは「方法(Method)」の章です。そこには、なぜその手続きが選ばれたのか、どのように剰余変数を統制しようとしたのか、といった研究者の工夫が詰まっています。
今回の問題の元ネタであるKirschbaumらの論文のように、有名な実験手続き(例:Trier Social Stress Test)について調べておくと、具体的なイメージが湧きやすくなり、理解が深まります。論述問題の演習を積む:
大学院入試では、知識を単純にアウトプットするだけでなく、限られた字数の中で論理的に説明する能力が求められます。・過去問演習: 志望する大学院の過去問はもちろん、他大学の類似問題にも取り組みましょう。
・時間と字数を意識: 必ず時間を計り、指定された文字数(例:200字、400字)に収める練習を繰り返してください。
・要約と再構成: 文章を書く際は、まず盛り込むべきキーワード(例:ベースライン、社会的評価、剰余変数の統制)を箇条書きにし、それらを論理的な順序でつなぎ合わせる練習をすると、簡潔で分かりやすい文章が書けるようになります。
今回の過去問:立命館大学大学院(2023年度 9月実施)より
ある実験について記述した以下の資料を読み、問題に答えよ。
入学試験や就職活動で面接官の前で話すとき、緊張のあまり脈が速くなったり手汗をかいた経験を持つ人は少なくないであろう。そこで、面接場面のように他者に評価される事態でスピーチを行うとき、心理的なストレス、心拍数の増加が生じるかを実験的に検討した(注1)。
実験条件では、2 名の面接官の前で自分の長所について 5 分間のスピーチを行うことが求められた。また、参加者のスピーチについて、内容のわかりやすさ、話し方に抑揚があるか、声が震えていないか等が評価されると伝えられた。(下線①)このように実験条件では面接場面を模して心理的なストレスが生じうる状況を参加者が経験した。一方、統制条件は心理的ストレスを経験しにくい状況とした。尚、いずれの条件においても、スピーチ前に3分間の時間が与えられ、参加者はスピーチの内容を考えた。実験では、各5分の(下線②)事前安静期、スピーチ期、事後安静期の3つの測定期が設けられた。事前および事後の安静期では、特に課題を設けず、参加者は安静にしているように教示された。これらの各期において、心拍数を計測し5分間の平均心拍数を算出した。また、各期終了後に、各期におけるストレスの強さを7段階(非常に強い[7点]−全くない[1点])で評価することが求められた。(下線③)参加者は実験条件、あるいは、統制条件に、ランダムに割り当てられた。
得られた実験データを2つの図に示す。

注1:面接を模した状況でストレスをかける手続きを最初に考案したものとして、次の研究が知られる。 Kirschbaum, C., Pirke, K. M., & Hellhammer, D. H. (1993). The 'Trier Social Stress Test'-a tool for investigating psychobiological stress responses in a laboratory setting. Neuropsychobiology, 28, 76-81.
(1) 下線部③のように参加者がいずれか一つの条件に参加する実験計画の名称を答えよ。(10字程度)
(2) 下線①、本実験における適切な統制条件とはどのようなものか、実験条件と対比させて説明せよ。(200字以内)
(3) 下線②の通り、実験では3つの測定期を設けた。今回の実験においてもスピーチ期のみで計測を行った場合どのような問題が生じたかを述べよ。合わせて、3つの測定期を設けるメリットについて記述せよ。(400字以内)
問題・解答までの解説
(1) 実験計画の名称について
この実験では、参加者を「実験条件」か「統制条件」のどちらか一方のグループにランダムに割り当てています。このように、異なる参加者が異なる条件に参加する実験デザインを被験者間計画(between-subjects design)と呼びます。
「独立群計画」もほぼ同義で使われます。 これと対になるのが、同じ参加者がすべての条件に参加する被験者内計画(within-subjects design)です。被験者内計画は個人差を排除できるメリットがありますが、前の条件が後の条件に影響を与える「順序効果」などの問題が生じる可能性があります。
(2) 適切な統制条件について
実験研究の目的は、「原因(独立変数)が結果(従属変数)に与える影響」を明らかにすることです。
この実験では、原因は「社会的評価ストレス」であり、結果は「主観的ストレス得点や心拍数」です。
この因果関係を正しく検証するためには、調べたい原因以外の要因(剰余変数)が結果に影響を与えないように統制する必要があります。そのために設定するのが統制条件です。
実験条件: スピーチをする+面接官による評価がある(社会的評価ストレスあり)
統制条件: スピーチ(に似た行為)をする+面接官による評価がない(社会的評価ストレスなし)
もし統制条件が「部屋で静かに座っているだけ」だった場合、実験条件との違いが「社会的評価ストレス」だけでなく「声を出して話す」という行為そのものも含まれてしまいます。これでは、心拍数の上昇がストレスによるものか、単に発声したことによるものか区別できません。
そのため、解答例のように「一人で音読する」といった、調べたい要因(社会的評価ストレス)だけをきれいに取り除いた条件を設定することが、実験の内的妥当性(因果関係を正しく推論できる度合い)を高める上で非常に重要です。
(3) 3つの測定期を設けるメリットについて
この問題は、心理学研究における測定のタイミングの重要性を問うています。
問題点(スピーチ期のみの場合):
・ベースラインの欠如: 人の心拍数や不安感には個人差があります。スピーチ期の測定値だけを見ても、それがその人にとって「高い」のか「普通」なのか判断できません。安静時の状態(ベースライン)と比較して初めて、「ストレスによってどれだけ上昇したか」という変化量を評価できます。
・群の等価性の未確認: ランダム割り当ては、平均的に見て実験群と統制群を等質なグループにすることを期待する手続きですが、偶然どちらかの群の初期値が高い(例:もともと不安が強い人が集まる)可能性もゼロではありません。事前安静期の値を確認することで、実験開始時点で両群に差がなかったことを確認でき、より説得力のある結論を導けます。
メリット(3つの測定期を設ける場合):
・事前安静期: 上記の通り、ベースラインの測定と群の等価性の確認ができます。
・スピーチ期: ストレス課題に対する反応性(reactivity)を測定できます。
・事後安静期: ストレスが去った後、心身の状態がどれだけ速やかにベースラインに戻るか、すなわち回復(recovery)の過程を評価できます。ストレス反応の大きさと同様に、回復の速さも精神的健康の重要な指標となります。
このように、複数の測定点を設けることで、人間の一時的な状態変化をより動的かつ多角的に捉えることが可能になります。
解答
(1) 被験者間計画(または、独立群計画)
(2) 実験条件は、面接官の前でスピーチを行い評価されるという社会的評価ストレスを課すものである。これに対し統制条件は、この社会的評価ストレスという要因のみを取り除き、他の条件を可能な限り等しくしたものである。
例えば、面接官がいない部屋で一人で中立的な文章を音読するなど、スピーチという行為は課すが社会的評価の要素は含まない状況が、適切な統制条件となる。
(3) スピーチ期のみの計測では、観察されたストレス反応が課題によるものか、元々の個人差によるものか区別できないという問題が生じる。
また、実験開始前の時点で実験群と統制群が同等であったかどうかも確認できない。3つの測定期を設けるメリットは、①事前安静期でベースライン(基準値)を測定し、それを基準に課題による変化量を正確に捉えられる点、②事後安静期でストレスからの回復過程を評価できる点にある。これにより、ストレス反応の発生から収束までの一連の過程を多角的に分析できる。
いかがだったでしょうか?
こういった心理学研究法・統計学の問題は、試験の点数に差がつく問題として良く出題されます。統計用語の理解とともに覚えて使えることが大切です。
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