2025/5/10
認知心理学とは|認知革命から情報処理モデル・記憶研究までを解説
心理学の歴史を学ぶことは、現在の心理学的アプローチの背景を理解するうえで不可欠です。前回の記事では、実験心理学や構成心理学、行動主義、ゲシュタルト心理学などの潮流を追いながら、心理学がいかに科学として発展してきたかを見てきました。今回はその続編として、1960年代に起こった「認知革命」を中心に、現代心理学の核とも言える認知心理学の誕生と発展の過程を解説します。
心理系大学院の専門試験において、「認知心理学」は出題頻度が高いとはいえませんが、得点に差がつく分野のひとつです。特に、情報処理モデル、記憶、注意、言語処理などは用語説明問題として出題されやすいといえます。背景となる歴史や学派の位置づけを理解しておくことで、知識の整理や応用的な問題への対応がしやすくなります。
認知心理学とは何か?
認知心理学は、「人間のこころの働き」を情報処理の観点から科学的に解明しようとする心理学の一分野です。感覚器官を通して得られる刺激をどのように処理し、記憶し、思考し、意思決定するかを段階的に明らかにしようとする試みです。
「認知(cognition)」という言葉は、しばしば「感覚」や「知覚」と混同されがちですが、認知とは、感覚や知覚に基づいて行われる解釈、判断、推論などの高次の精神的活動全般を指す概念です。たとえば、目の前に犬がいるとき、それを「犬だ」と認識するのが知覚であり、「この犬は以前に会ったことがある」「吠えそうだから距離を取ろう」といった判断は認知に含まれます。
認知革命:行動主義からの脱却
<行動主義の限界と新しい視点の登場>
1920年代以降、行動主義心理学が隆盛を極め、「観察可能な行動」だけを研究対象とする科学的アプローチが主流となりました。しかし、このアプローチでは、思考・記憶・意図・判断といった“心の中の過程”を説明することが困難でした。
そこで1960年代前後に起こったのが、「認知革命(cognitive revolution)」です。この動きは、心理学に言語学・計算機科学・人工知能・情報科学などの知見を取り入れ、人間の内的な情報処理を再び科学的に探究する方向へと転換を促しました。
認知心理学に影響を与えた諸分野
<サイバネティクスと情報理論>
認知心理学の基盤を築いた学問の一つに、ウィーナー(Wiener, N.)による「サイバネティクス(cybernetics)」があります。これは、生物や機械における制御・通信・情報処理を統一的に扱う学問であり、第二次世界大戦中に開発された高射砲の制御システムなどを背景に発展しました。
さらに、シャノン(Shannon, C. E.)の「情報理論」は、情報をデジタルに分解し、通信の過程を数理的に扱う方法論を提供しました。これらの理論は、人間の情報処理能力を計算機に例えるという発想の基盤となり、心理学にも大きな影響を及ぼしました。
認知心理学の諸理論:記憶と注意のモデル
<ミラーの「マジカルナンバー7」理論>
1956年、ミラー(Miller, G. A.)は、人間が短期的に保持できる情報の単位が「7±2チャンク」であるとする仮説を提唱しました。これはのちに「マジカルナンバー7」と呼ばれ、短期記憶の容量に関する古典的な理論として現在も広く知られています。
ただし、後の研究では保持可能なチャンク数は「4±1」程度であるとの見解もあり、現在ではより限定的に用いられることが一般的です。
<ブロードベントのフィルターモデル>
ブロードベント(Broadbent, D. E.)は、「選択的注意」の研究において「フィルターモデル(filter model)」を提唱しました。これは、人間が同時に受け取る膨大な感覚情報を、注意のフィルターによって選択的に処理しているというモデルです。
ただし、後にトリーズマン(Treisman, A.)によって、「注意を向けていない情報もある程度意味処理されている」ことが示され、このモデルは「減衰モデル」へと修正されることになります。
<言語研究とチョムスキーの生成文法理論>
認知革命のもう一つの転換点は、スキナーの行動主義的言語学説に対するチョムスキー(Chomsky, N.)の批判です。チョムスキーは、「普遍文法(universal grammar)」という考えに基づき、言語獲得能力は人間に生得的に備わっていると主張しました。
この理論では、人間は「言語獲得装置(Language Acquisition Device = LAD)」を持っており、環境からの限定的な言語入力でも、複雑な文法を習得できるとされます。これにより、学習理論では説明が難しい文法習得のメカニズムが、認知的な視点から理解されるようになりました。
<ミラーのT.O.T.E.モデル:目標指向行動の認知的記述>
ミラーは1960年、共著『プランと行動の構造』において、行動の単位を「T.O.T.E.(Test-Operate-Test-Exit)」というモデルで記述することを提案しました。これは、以下のような認知的プロセスを段階的にモデル化したものです:
Test(テスト):現状と目標との差異を確認する
Operate(操作):差を埋めるために行動する
Test(再テスト):行動の効果を再評価する
Exit(出口):目標が達成されれば終了する
このモデルは、のちの問題解決、目標設定、意思決定の理論にも影響を与えており、教育心理学や認知行動療法などにも応用されています。
認知心理学の現在と今後の展開
現代の認知心理学は、情報処理モデルにとどまらず、感情や動機づけとの統合的理解、神経科学との連携、社会的文脈での認知の研究へと広がりを見せています。MRIや脳波を用いた認知神経科学や、AI研究との連携による認知アーキテクチャの設計など、学際的な展開も盛んです。
入試対策:認知心理学でおさえておきたいキーワード
心理系大学院の試験では、以下のキーワードが頻出です:
・認知革命/計算機メタファー
・マジカルナンバー7(ミラー)
・フィルターモデル(ブロードベント)・減衰モデル(トリーズマン)
・生成文法理論/普遍文法(チョムスキー)
・T.O.T.E.モデル(ミラー)
・情報理論(シャノン)/サイバネティクス(ウィーナー)
単なる暗記ではなく、「この理論が何を克服しようとしたか」「どのようなモデルと対立しているか」など、背景理解と比較の視点を持って学ぶことが合格への鍵となります。
おわりに:認知心理学を土台に、学びの応用力を育てよう
認知心理学は、心理学の中でも特に理論的基盤が強く、さまざまな心理的支援や研究の出発点となる領域です。心理系大学院の進学にあたっては、この分野の理解が深まるほど、他分野とのつながりや応用的な学びもスムーズになります。
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