Blog心理英語 #4:孤独のエピデミック Loneliness Epidemic と対人関係療法の可能性
2024/11/8
心理英語 #4:孤独のエピデミック Loneliness Epidemic と対人関係療法の可能性
心理英語の窓をひらこう:最新心理学記事で学ぶ表現と知識
Opening the Window to Psychological English: Learn Expressions and Knowledge through the Latest Psychology Articles
このブログでは、心理学、脳科学、精神医学などの最新の英語論文から、興味深いトピックをピックアップして解説します。英語が得意でない方でも理解しやすいように、重要なフレーズや単語の意味を分かりやすく紹介し、心理英語の世界に自然と慣れ親しめる内容を目指しています。リラックスして読み進める中で、心理系大学院の受験にも役立つ英語力が少しずつ身につく、そんな実践的でフレッシュな記事をお届けします。
孤独のエピデミック Loneliness Epidemic と対人関係療法の可能性
こんにちは!このブログでは公認心理師や臨床心理師を目指して心理系大学院を受験する皆さんに、最新の英文記事から心理系英語の読解に役立ちそうな話題をピックアップしてお届けしています。今回のテーマは、だれにとっても身近で、時に難しい話題であるloneliness(孤独)とisolation(孤立)です。普段の勉強の合間に、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
孤独のエピデミック
2000年代以降、孤独(loneliness)や孤立(isolation)が個人の悩みを超えて、深刻な社会問題として注目されるようになりました。例えば、イギリスでは2018年にMinister for Loneliness(孤独担当大臣)が設置され、国家的に孤独問題に取り組む姿勢が示されました。これは、孤独を「公衆衛生上の問題」として捉え、個人だけでなく社会全体で対応すべきという考え方に基づいています。そして、特にコロナ禍以降は、世界中で孤独の問題が深刻化し、対策の必要性が叫ばれています。
学術的な視点でも、孤独や孤立への関心が高まっています。アメリカ国立医学図書館が運営する信頼性の高い文献データベース PubMed でloneliness(孤独)をタイトルに掲げる論文の数を見てみると、2010年頃から増加が始まり、2020年のパンデミックをうけて急激に増えていることがわかります(下図参照)。

今回取り上げるのは、2024年10月にJAMA Psychiatryに掲載されたBuilding Resilient Relationshipsというタイトルの論文です。この中で述べられるloneliness epidemic(孤独のエピデミック)という表現は、lonelinessがまさに感染症のように広がる現象を比喩的に表現したものです。心理学や公衆衛生の分野では、こうした「孤独のエピデミック」をどう捉え、どのように対処すべきかが大きな課題となっているのです。
今回のフレーズ:loneliness epidemic
As globally disseminated treatment ideas focused on relationships, IPT concepts may help us rethink the worldwide loneliness epidemic. (Kumar et al., JAMA Psychiatry, 2024)
解説:
globally disseminated treatment ideas
ここでは「世界的に広がった治療の概念」と訳されますが、disseminateは「広める」「普及させる」を意味し、医学的な「治療法」や「概念」を各国へ普及させることに用いられます。
IPT (Interpersonal Psychotherapy)
IPTはInterpersonal Psychotherapyの略で、米国でクラーマン博士らによって開発された期間限定の短期精神療法です。日本では対人関係療法と呼ばれています。重要な他者(自分の情緒に最も大きな影響を与える人)との「現在の関係」に焦点を当てた治療法で、対人関係の改善を通して孤独感や抑うつの軽減を図ります。アメリカ精神医学会の治療ガイドラインでもうつ病に対する有効な治療法として位置づけられ、認知行動療法(CBT)と双璧をなす精神療法として人気があります。
loneliness epidemic
epidemicは、医療・公衆衛生の用語で、一定の地域や集団において、ある疾病の罹患者が、通常の予測を超えて大量に発生する状況、つまり感染症の「流行」や「蔓延」を意味する言葉ですが、比喩的に「突然の(望ましくないものの)社会的な流行」を表現する場合にも用いられます。ここでのloneliness epidemicは、「孤独が急速に蔓延する現象」を比喩的に表現しています。
因みに、このような表現は、obesity epidemic(肥満の流行)のように、他の社会的問題に対しても使用されることがあります。肥満が健康を脅かす広範な社会問題であるように、孤独も健康や幸福に関わる重大な問題として捉えられているのです。
訳例:
IPTの概念は、対人関係に焦点を当てた治療アイデアとして世界的に広まっており、私たちが世界的に蔓延する孤独の問題を再考するための助けとなるかもしれません。
※ここでの As ~ は、「〜として」「〜のように」といった意味で使われており、主節部分で述べることに対して、その主語についての前提情報や背景を提示しています。
参考:epidemic と pandemic
epidemic(エピデミック)は「ある地域で多くの人に病気(感染症)が広がること」を意味し、pandemic(パンデミック)はそれを超えて「世界中で多くの人に病気(感染症)が広がること」を指します。つまり、epidemic は地域的な広がり、pandemic は地球規模の広がりという違いがあります。
ただし、ここでの worldwide loneliness epidemic のように、比喩的に「あたかも感染症のように広がる」社会現象を表現する場合には、epidemic が使用されることが多いようです。これは、おそらく pandemic が感染症の連想を強く伴うことから、孤独のような社会的問題の拡大を表すには、epidemic がより適切な比喩表現と考えられるためでしょう。
今回は、loneliness epidemicというフレーズに注目してみました。欧米では、epidemicという言葉が示すように、孤独は感染症のように人々の生活に広がる社会的な健康問題として認識されています。日本では、孤独や孤立は「個人の問題」として捉えられやすい傾向が未だ感じられますが、厚生労働省も孤立問題への対策に取り組み始めており、今後は「公衆衛生の問題」としての認識が更に広まり、孤独は誰にでも起こり得る課題であるとの認識が浸透することが期待されます。
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もまた、心理系大学院受験の英語対策に役立つ実践的でフレッシュな話題をお届けしたいと思います。
【この記事を書いた人】
木村 崇志 ココロアップアカデミー講師 臨床心理士・公認心理師
引用文献
著者: Kumar M, Mootz J, Weissman M.
投稿日:Published online October 30, 2024.
記事タイトル:Building Resilient Relationships
出典:JAMA Psychiatry https://ja.ma/3C97oF1




